『バイオレンスジャック―完全版』永井 豪 (著)
デビルマンに比べると、知名度のない作品。
だが、長いながらも濃密な展開の連続。永井豪ワールドが全開な作品であり、一読の価値はある。
ただ、完全版だと500頁×18巻ほどあり、相当気合いを入れないと、途中で面倒になるかもしれない。加えて、少年誌→月刊誌→青年誌と掲載雑誌を移していったため、話が進めば進むほど、エログロがキツくなる。エログロがキツくなっていくと当然のことだが、殺人描写や性交描写、レイプ描写も増えていくため、そのあたりが受け入れられない方は読むべきではないだろう。
1.作品考察
バイオレンスジャックを見る上では、ある特定の作品と比較せねばならない。
それは「デビルマン」である。
完全版(愛蔵版でも文庫でも)の最後、解説部分で夢枕獏氏が解説している事柄と被るが、それでも、デビルマンと対比せざるを得ないのである。
デビルマンのエンディングはサタンとデビルマンの戦争、そして、破壊され尽くした地球の片隅にデビルマンこと不動明とサタンこと飛鳥了が佇むというものであった。 この終わり方は、文庫で全5巻、しかも200頁×5巻程度であるにも関わらず、酷く濃厚な完結であった。漫画版デビルマンの最終回と言えば、こういうのだったよねと言うぐらいエネルギーを使い果たしたような最終回だった。
ただ、一つ問題があった。それは寂しさがつきまとう結末だったということである。
最終戦争の後、一人佇むサタンの姿は物寂しい。愛するデビルマンの死を見届け、破壊され尽くした地球にただ一人である。バッドエンドにも程があると言える超バッドエンドであった。
この問題への解答となったのが、バイオレンスジャックであったのである。
バイオレンスジャックでは、2つの手段を用いて問題を解決しようとした。
それは、
- 「人間不動明=デビルマン」から「バイオレンスジャック」という肉体的、精神的に超人的な存在へと成長させたこと
- 希望を持ち、正しく生きようとする人間を数多く登場させたこと
の2つである。
まず、1つ目である。デビルマンにおいて主人公の不動明は人間的な要素を多く残していた。それが故に悩み苦しみ怒りに心を震わせ、最後には飛鳥了と対立し、戦うことになってしまった。
だが、バイオレンスジャックでは違う。ジャックは超然とした、それでいて確固たる意志を持った存在として登場する。悩み苦しむという精神面での揺れをほぼ克服しているのである。
例えるならば、仮面ライダーからウルトラマンへと変わったというところだろうか。他の登場人物から見ると、かなり異質な、何か「違った」存在となっているのだ。
これによって、確然とした意志を持ち、為すべきことをこなしていくことが可能になったのである。そして、最後には「デビルマン」の問題へ解答を導き出すことに成功したのだ。
2つ目は、正しく生きる登場人物を複数人登場させたということである。
「デビルマン」において、人間は弱い(肉体的にも精神的にも)存在として描かれていた。それが、最後の破滅的な展開へと続く出来事をもたらしていた。
人間は弱い存在である、という考え方は確かに妥当性が高いと思われる。だが、疑問も残る。
それは、
「人間が弱い存在として、全員が狂ってしまうほど弱い存在なのだろうか。狂わず、冷静でいられる人間も多数存在するのではないか。更に考えれば、か弱い存在であるならば、狂いも冷静でもなく淡々と状況に流される人間も多数存在するのではないだろうか」
という疑問である。
「デビルマン」においては、明の周囲の複数人のみが冷静であり続けていた。だが、狂った人々の数に押され、全員が殺害されてしまった。
だが、バイオレンスジャックでは、狂ってしまった世界でも正しく生きようとする者たちを登場させ、更に流される人間も多数現れた。彼らは時にジャックによって助けられ、最後にはジャックから独立し一人立ちするのである。
以上2つの点が交わり、そして最後には放れ、バイオレンスジャックという作品は構成されている。
人は、時に超人的な存在の助けを必要とする。それは、神、仏、八百万の神、その他様々な存在の助けである。
しかし、一方で人は自ら歩く力を持っている。人を育て、物を作り、制度を作り、社会を作り上げていく力を持っている。
時に絶望に陥りかけることもあるだろう。それでも希望を捨てず、「正しく生きる」ことを捨てなければ、活路を切り開くことができるのだ。
バイオレンスジャックの殆どは絶望的なことだらけである。でも、最後には「強く生きる」「正しく生きる」人々の希望を感じ取れる。
そんな作品である。
2.感想
全部が全部面白いかというと、それは正直保証できない。
ただ、エネルギーに溢れた作品だとは思う。
血がダラダラ、首がパンパン、人がパタパタ。正直、知らずに読んだらどん引きされるレベル。
家に並んでたらちょっとこの人とはつき合えないなと
言われても仕方ないと覚悟してください、な漫画。
例えば、とうとう家に女の子を呼ぶことができた〜という時ですよ。漫画書棚に「バイオレンスジャック」が全18巻並んでるわけですね。しかも各巻500頁。装丁は文庫版だと黒に白抜きでバイオレンスジャック。思わずパラパラめくってみるとですね。いやもうどん引きされると思います。人間的にこの人ヤバい気質持ちなんじゃないかと、将来的に暴力的になるんじゃないかと、そんなことを思われても仕方ない。
小説と違って、漫画で読みやすいから一層注意しなければなりません。ご利用は計画的に。
でも、漫画自体はおもしろいよ。全部が全部とはいかないですが。
例えば、マジンガーZの回とはシュールすぎて、これは面白いっちゃあ面白いんだけども、さすがにないわ〜と思うこと必至。
まあ詳しくは読んでみてくださいということです。
全9000頁ありますからくれぐれも読みすぎに注意して頑張ってください。
最後に一言。9000頁はやっぱり長いよ。
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