『ToLOVEる -とらぶる-』SS「ある朝の儀式」

<前書き>
 そういえばTo LOVEるが一区切りでしたね(これをアップしたのが月曜日ですので、別に間違ってはいません)。
 前回はどうなることかと思いました。で、今週でしたが、この終わらせ方が来るとは……。
 最後の最後で、自分がとらぶるがとらぶるたる所以を忘れていたことが悔やまれます。
 正直、一とらぶる読者としては、自分で自分に「失格」と言ってしまいたいものであります。
 発想の貧困さが悔やまれるのです。
 まさに、御見それしました、という最終回でした。
 

 で、今回の話ですが、……また美柑?
 何故こうなったかと言うと、たまたま、漫画を読んでて、いい場面があったのでそれを使って書いてみたいなと……。
 かなり内容は変わっておりますが、元ネタは『さくらの境(著:竹本泉)』第1巻の第4話になります。
 ぼんよりとした美少女日常ラブリーコメディーなんで、よろしければどうぞ、こちらも読んでみてくださいませ。
 内容ですが、美柑が何やってるかはすぐに分かると思います。それが内容の全てです。
 今回は4000字を切るぐらいですので、パッと読み終えられるレベルです。
 では、どうぞ。

 学校が始まると、逆に起きるのが辛くなるのはどうしてだろう。
 そんなことを、リトは考えていた。
 何とか、すっきりと朝起きる方法はないかと思っていた。
 目覚ましと競争して勝ったりしたら、幾分目覚めが良くなるかもしれない。
 でも正直、目覚ましがなる前の時間に眼を覚ましたとしても、二度寝は必定だろう。
 結局、けたけましく鳴る目覚まし時計の音に、のそのそと眼を覚まし、パチリと止めるぐらいが限界だ。
 今日も……。


 「あれ?」
 やたらとすっきりした目覚めだった。
 目覚ましを見るとすでに止められている。時間は……ちょうどといったところだった。
 起き上がろうとすると、ベッドに乗りかかって、カーテンを開けている美柑がいた。
 「おはよう、リト」
 「へ? あ、ああ、おはよう、美柑」
 美柑は、手早くザッザッとカーテンを引き、纏める。
 外の光に思わず目がくらんだ。
 「どうしたの?」
 「光が……眩しい」
 「すぐ慣れるでしょ。それに、人間の体内時計は朝光を浴びないとリセットされないみたいよ」
 「それ、一体どこで得た知識だ?」
 「夏休み中にやってたお昼のワイドショー」
 「ホントかね……それ……」
 「どうだろうねぇ。でも、なんとなくそんな気がするぐらいでいいんじゃないの」
 「ん〜、まあそんなもんか……」
 「そうそう。そんなもんよ」
 美柑はベッドから離れて、部屋を出て行こうとする。
 扉を開き、出ていく前に一度振り返って言った。
 「朝の準備できてるから。さっさと降りてきなさいよ」
 「了解」
 ガチャリと部屋の扉が閉められ、再びリト一人の空間に戻った。
 「んじゃ、着替えますかね」
 リトは、ベッドから立とうとする。
 「ん?」
 唇に変な感触があった。
 「……なんだ?」
 人差し指と中指を並べ、指の腹で唇を擦ってみる。
 離して、指を見てみたが、特に何も付いていなかった。
 眉間にしわを寄せ、何かあったか思い出そうとするも、思い当たるところは無かった。
 「着替えよ……」


 次の日の朝……。
 「ん……」
 リトは眼を覚ます。昨日に引き続いて、やたらとすっきりした目覚めだ。
 そして、目の前にはカーテンを開ける美柑の姿がいた
 「ん……おはよ……。美柑……」
 「ええ、おはよう。リト」
 「まぶし……」
 「ご飯出来てるから、さっさと降りてきなさいよ。後片付けだってあるんだから」
 「分かった」
 「じゃあ、早く来てね」
 美柑はそう言い残して出て行った。
 「……着替えるか」
 目覚ましを確認すると、すでに止めていたようだった。
 ベッドから立ち上がり、制服に着替える。
 階段を下りながら、リトは考えていた。
 「……なんか、変だなぁ……」
 こう、なんていうか、口に何か引っ付いたような気がする。押し付けられたような感触が残っている。
 「ま、いっか」
 結局、実害が無いのでどうとも判断しようが無いのであった。


 そのあと何日も続いて、変な感覚は続いていた。
 変だなあと思いつつも、日々の生活に不具合が生じるというわけではなく、むしろ朝から心地よい目覚めがあって、困るぐらいに良いのであった。
 パッと目が覚めた時に、美柑がいてカーテンを思い切り開いてくれるのも、すっきりとした目覚めに繋がっているのかなと、リトは考えていた。
 「美柑に感謝しないとなあ」
 まったく、よく出来た妹である。誰よりも早く起き、食事の準備を始め、自分を起こしに来てくれる。
 普段の生活から家事全般に至るまで、細部に行き届いた仕事をしている。
 まさしく、自分には過ぎた妹だなあとリトは思った。
 「逆に考えると、オレ、駄目すぎないか」
 仕事は基本的に妹に全部任せているし、風呂掃除やら食器洗いやらは手伝うけど……、料理をするにはとても心もとないし。
 「美柑がいなかったら、俺生活できんのかなあ」
 かなあとお茶を濁したような語尾を吐いてみたが、現状出来そうも無いなあと思っていた。
 というのは、前回美柑が病気で倒れたときの、自身の家事に対する理解と習熟が如何に不足しているかを実感したからだった。
 「それにしても……、一体なんなんだろな」
 「どうしました、リトさん」
 「うわっ! な、何だモモか……」
 階段を降りきろうとすると、右側からニョキっとモモが現われ、喋りかけてきた。
 「何だって言われるのは、心外ですねぇ」
 いかにも残念だといったような表情で、モモが見てきた。
 「す、すまん……」
 「いえいえ、それでいかがなさいましたか」
 「ん〜〜。そうだな〜〜。モモ、ちょっと俺の口になんか出来てたりしない?」
 唇を指差して、リトが訊ねた。
 「分かりました。ではちょっと失礼して……」
 モモはリトの首に腕を回し、顔を寄せてきた。
 加わる体重がリトの背中を曲げ、二人の距離を一層近づける。
 「な……、何を……」
 慌てるリトに対して、モモは妖しく笑って言った。
 「それはもう……触診ですわ。感じやすく、脆い場所を患部に沿わせることによって、よりリトさんの状態を明確に把握できるというものです」
 「そうは言うものの……、これは全く違うだろ……」
 モモの艶かしい唇が近づいてくる。リトはただただ動けずにいた。
 その時、ガチャリとリビングのドアが開いた。
 「リト〜〜、モモさん。ってあんたたち何やってるの!」
 「み、美柑っ!!」
 横目で美柑を見るリト、ようやく現実に戻ってきたのであった。
 「エイッ!」
 「えっ」
 一方、モモはまったく動じていない様子で、ピタッとリトの唇に人差し指をあてた。
 そして、そのままワイパーのようにリトの唇を撫で回す。
 「モモさん! 離れなさい!」
 美柑が間に介入し、リトとモモを引っぺがした。
 「うわっ」
 「キャッ」
 二人はようやくはなれ、美柑を頂点に二等辺三角形を作ったような状態になった。
 美柑はまず、キッとリトを睨んで訊いた。
 「それで……どうしてこんなことをしていたのかしら……」
 「えっとだな……。階段を下りたときにモモと会って、それで……」
 「それで?」
 「口元が変だから、ちょっと見て欲しいということでしたので。拝見させていただいたのですわ」
 「へっ?」
 美柑の様子が、怒りモードから変わる。ちょっとびっくりした様子になった。
 「ですから、口元です。より正確に言うと唇ということになりますかね……。私が所見したところ……、おそらくリトさんは何らかのものが押し付けられていたような感触をもたれたのではと思いますが」
 あまりに的確すぎるコメントに、リトは驚きながら言った。
 「よく分かったなあ、モモ」
 「いえいえ、そして……」
 「はいっ! そこまで!」
 話の糸を断ち切るように、美柑の右手が入ってきた。
 「この話はここまで! リトにはリップでも渡しておくから。とりあえず時間もあるし、二人とも、食事、さっさと済ませて!」
 モモを見たあと、美柑はリトのほうを見た。その顔は、やっぱり怒っていた。
 しかし、顔に赤みが差していた。


 次の日……。
 リトが目覚めると、そこにはなぜか美柑とモモの姿があった。
 「ん?」
 口の中がなんか変な感覚がする。妙に……水っぽい、ただ自分の体液ではないような感覚があった。何だろうとリトは思いつつ、余分な水分を喉に流し込んだ。
 「ところで、美柑、モモ。おはよう」
 「へっ?」
 「あら」
 二人はようやく気づいたようで、ちょっと驚いたようにこちらを見ていた。
 「お、おはよ……。リト……」
 「おはようございます。リトさん」
 美柑は少し目をそらして、モモは普段と変わらず恭しく挨拶をしてきた。
 「で、どうして二人がここに?」
 リトが訊くと、二人は全く別の反応を示した。
 「べ、別に……たまたま居合わせた……」
 「そうそうリトさん! 昨日の、ムグッ……」
 「きゃっ、だ、駄目っ!」
 美柑が思い切りモモの口を塞いだ。
 「ど、どうした?」
 「なんでもないから! ほ、ほら、こっち行きましょう」
 美柑はモモを半ば引きずるように、出入り口へと引っ張っていった。
 ドアの前で二人が会話をしているが、声が小さく、ここまで聞こえてこなかった。
 「おーい、美柑、モモ、大丈夫か」
 仕方無しに、頭を掻きながら、リトは立ち上がって二人の元へと近づいていく。
 「……だからね」
 「ええ、了解しましたわ」
 どうやら、二人の間で取り決めがなされたようだった。ただ、その内容については聞き取ることが出来なかった。
 「で、大丈夫?」
 美柑はピッとリトに向き直って言った。
 「大丈夫大丈夫! ハイッ、もう終わったからさっさと着替える! 朝ごはんもう出来てるからね」
 「へっ、おわっ。とっ、と!」
 美柑が思い切り押してくる。寝起きで身体に力が入らず、リトはそのまま移動させられた。
 「じゃ、じゃあね! モモさん、行きましょう」
 反転して、美柑が出て行く。扉を開け、まず自分が先に出る。
 「それではリトさん。本日はありがとうございました」
 「モモさん!」
 「はい、美柑さん。それでは失礼しますね」
 ぺこりとお辞儀をして、モモが出て行った。扉が閉まり、音が聞こえる。
 そして、何事も無かったかのように、シーンと部屋が静まり返る。
 「何だったんだ一体……」
 寝起きのドタバタに頭が追いつかない。嵐のように現われ、出て行った二人は一体何を話していたんだろう、とリトは思った。
 「着替えよ……」
 リトはとりあえず保留しておき、クローゼットに制服を取りに行った。
 「ん?」
 唇を触ってみる。いつもより濡れている気がした。それに、唇に残る感触も少し違っていた。
 「ま、いっか……」
 今回も特段、害は無い様子だったので、結局気にしないことにした。
 そういえば、あの時モモは何を言おうとしたのかなあ……なんてことを思いつつ、ダラダラと制服に着替えるリトであった……。


<後書き>
 今回も読んでいただき、誠にありがとうございます。


 さすがに、美柑が何やってるかが分からない人はいなかったと思います。
 よくよく考えると、ちょっと酷いシチュエーションですねぇ。現状独占気味ですし。
 このあとも、二人だけだったりしたら、ちょっとララやセリーヌ?に酷いかもしれませんね。
 最終的にはヒロイン全員が週1で受け持つんでしょうか。それでもリトは気づかないw
 

 そういえば、モモが何やったかについても分かっていただけたでしょうか
 さすがモモさんや! やることが色々きっついで!! と、まあそんな感じです。
 で、美柑がそれを見てびっくり。でも交換材料出されてギックリ。
 そして、今回の最後に至るわけですね。
 「またもモモに弱みを握られた美柑、彼女の運命やいかに!?」
 とやり始めると、最終的に変な方向(おもに18禁方面)に行ってしまうので、そこから先はまた別の話。
 ワンワン! とかやってみても楽しく……ねぇ……。興奮度合いは高そうだけど。
 ニッチ向けすぎるだろ常識的に考えて……。


 では、今回もこれで終わりになります。
 また、ここでお会いできたら幸いです。さようなら。

 <追記>
 一応昔書いた奴も紹介しておきます。よろしければどうぞお読みくださいませ。
 『ToLOVEる -とらぶる-』SS「春眠乙女」 - 一歩進んで三歩戻る
 初めて書いた美柑ssですね。内容はリトと一緒に寝る。原作でやりましたね。一応原作よりも先に書いたんで許してください。
 それに色々違うところもありますし……。
 『ToLOVEる -とらぶる-』SS「兄で息子、妹で母親な二人だけの昼下がり」 - 一歩進んで三歩戻る
 第二弾美柑ss。内容は夏休み終盤のある日、美柑がリトの耳掃除をします。
 ちょっとドキドキなはずなのですが、リトはあまりドキドキしなかったり。てかリトがドキドキしたら性的に過ぎるなと思ったので。
 『ToLOVEる -とらぶる-』SS「夏の終わり」 - 一歩進んで三歩戻る
 第三弾美柑ss。内容は、リトと美柑とセリーヌがアイスを食べたりする話。
 食べあいっことか書いてみたかったんです。
 『ToLOVEる -とらぶる-』SS「ある夜の密談」 - 一歩進んで三歩戻る
 第五弾美柑ss。
 夜中にリトの部屋へと忍び込むモモを止めるため、美柑が立ち上がったのだけれど……。
 書いている当人も思わぬ方向へと進んで行ってしまった印象のある一作。
 本音と建前と自覚と無自覚をその時々で上手く使いこなせれば楽しいかも。