『ToLOVEる -とらぶる-』SS「ある夜の密談」
<前書き>
こんにちは。m_kasaiです。
To LOVEるのSSを頑張って月曜日に更新するぞ! と息巻いていたのですが、結局途中のものは完成せず、今回も即席で短編というオチ。
そしてまた美柑。美柑好きなんですけどね。
そしてモモ。モモは美柑と対比されているから、使いやすいですね。
書いているうちに、家では美柑とモモが、学校では唯とララが、てな感じの似たような関係。
ナナと春菜が同ポジション? まあ、ポジショニング談義はまた今度です。
唯、ルンルン、ヤミちゃんの話をそれぞれ一本書いている途中で、ララちー、沙姫も構想はあります。
春菜も考えてはいるのですが、主役!というような話を思いつきません。原作後半で春菜回が減ったのは致し方ないことだったかも。
春菜を主体的に活動させて、それでいてとらぶるな範囲を守ってとなると、うーん。
一つだけ考えがあるんですが、それをもう少し煮詰めてみようか。
まあ、それはそうと、今回の話も美柑の話です。
ちょっとシリアスなところがあります。あと説教臭いと思われる点もありそう。
最後は綺麗に終わっていると思いますので、力を入れず読んでいただけたら幸いです。
4500字前後の話です。
ではどうぞ。
夜半を過ぎて、結城家はすっかり静まりかえっていた。
健全極まりない生活を送っているため、0時前後には基本的に全員が床に就いている。
今日も多分に漏れず、遅くとも十一時ごろには各々の部屋に戻り、就寝と明日の準備を始めていた。そして、0時ごろには全員がベッドの中に入っていたのだった。
しかし、近頃、少し状況が変わってきている、と一人の少女は感じていた。
原因は、この前――といっても結構前だが――加わった双子の妹であった。
一人は全く問題が無い。精々、仰向けになっておなかを出しながら、よだれをちょっと垂らして寝ている程度である。もう少しおしとやかに眠ってほしいものであるが。
問題は、もう一人である。彼女の行動が問題であった。単なる勘違いで動き、誤って潜りこんでしまったならば許せよう。
事実、彼女らの姉も、部屋が極度に接近していたときには、幾度も潜りこんだ実績がある。
だが、彼女らの姉が添い寝していたことについては、最初は驚いたものの、実害が無いので放っておいても構わないと即断できた。
もちろん、実害とは……、口に出して言うのも慮れることである。
今回の場合、その実害――ほにゃららでおにゃららなこと――をもたらそうと意図的に、計画的に動こうとする、妹の一人が問題であった。
そして、その妹の侵攻を未然に防がんと、陰ながら格闘する人間が一人いる。
これは、結城家の風紀委員こと結城美柑のお話である
「そろそろかな」
美柑が時計を見ると、午前一時を少し過ぎたあたりであった。
パジャマに身を包み、髪の毛は下ろしている。ベッドから身を出し、壁に背中を傾ける。
今日、美柑が立ち向かう相手は一人。もうじき動き出すだろうと見られていた。
過去に何度か確認してみたところ、毎回この時間に動き出している。前や後ろにずらすことは無く、毎回同じ時間帯である。
忍び足で歩くことは無い。昼と変わらず、床のきしむ音や足が床と当たって鳴る小さな音を立てながら、彼女は向かっていく。
それは、今日も変わらなかった。
キシィと小さな音が断続的に聞こえてきた。
近くを通っているのか、音が少しだけ大きくなり、また小さくなっていく。
そして、音が止んだ。
「(今だっ!)」
カチャリとドアノブを回し、扉を引く。美柑はそっと廊下に出て、小さく声を上げる。
「モモさん、何やってるの」
そのまま、美柑はモモに歩み寄った。
扉を開く音で勘付いたのか、モモはすでにこちらを見ていた。その顔は全く動揺する様子も無く、「おはようございます、美柑さん」とでも言ってきそうな感じであった。
モモはニッコリと笑って言ってきた。
「美柑さんこそ、いかがなさいまして?」
「私は……、その……、じゃなくてモモさんに聞いてるの。部屋に入ろうとしてなかった?」
「ええ」
あっさり肯定であった。あまりに泰然自若としたモモの態度に、美柑は反応に困った。
もう少し、返事に詰まるような返答を予測していたのだ。だが、実際はこの反応である。
堂々としているというか何というか……、美柑はため息をついた。
「どうしましたか、美柑さん」
「……ハァ……、ねぇモモさん。」
「何でしょう?」
「どうして、リトの寝床にわざわざ入ろうとするの?」
「それはもう、リトさんが魅力的な男性ですから。お姉さまも昔はよく入られていたとお聞きしましたし、父性?と申しますか、本能的に私たちにとって何か来るものがあるのではと」
「でも、共同生活だし、そういった面ではやっぱり抑えてほしいっていうか……、それに……」
どうにかして、モモの行為を否定したいという言を発しようとする美柑であるが、中々流暢に述べることは出来なかった。当初に想定していた問答は遥か彼方の話となっていたからだった。
悪びれることなく、一つの行動を取っている相手に対し、感情的ではなく、理性的に否定するための言葉が上手く紡げなかった。
感情的になれば楽なのかもしれない。ただ、その場合、自己の矛盾を問われることも存分にある、と美柑は考えていた。
「それに、とは?」
聞き返しの台詞、自らの感情を強引に押さえつけながら美柑は返す。
「ララさんや春菜さん、ルンさん。最近では古手川さんだっていて。そんな中で一人だけ勝手に先走るっていうのは……」
奥歯に物が挟まったかのような中途半端な物言いであった。
そして、当然のごとく、この中途半端さは追及の対象となった。
「美柑さんは?」
「へ?」
「美柑さん自身はいかがお考えなのかなと思いまして」
「そんなの……」
「相手がどうした、なんていうことはどんなに考えたって難しいことです。昔、お父様は、『まず自分が何をしたいかを中心に考えろ』と私におっしゃいました。もちろん、周囲の状況や自分の立ち位置などをその際に考え、最終的な決断は下します。ですが、まずは『自分が何をしたい』が一番必要なことだと」
「……」
「ですから、美柑さんにもお聞きしたのです。美柑さん自身は何をしたいとお考えですか?」
「私は……」
何がしたいんだろうか、と考えてみた。今までのことを、これからのことを考えてみた。
ララが家にやってきたときのことを考えてみた。あのときから色々な関係が動き始めた。
リトに不満そうな態度を示したときのことを考えてみた。あのときからほんの少し見方が変わった。態度も変わった。
今このときを考えてみた。
将来を考えてみた。一年後のことを、二年後のことを、五年後のことを、十年後のことを。
「美柑さん」
「えっ?」
堂々巡りの思考を中断させるように、モモが名前を呼び、美柑はピクリと反応した。
「どうでしたか? 考えてみて」
「……あんまりよく分からなかった」
「そうですか。それは良かったです」
「良かった?」
不安そうにモモの顔を見る美柑に対し、モモはやさしく返す。
「ええ、悩むという行為はとても素晴らしいものだと思います。関係の中で単に受動的に生きるのではなく、何かを生み出そうと、何かを変えようとするきっかけをもたらしてくれますから」
「そう……かな?」
「はい。特に美柑さんみたいな責任感の強い人は、自分自身を強く規定してしまいがちですし」
「そっか……」
「もっと、私やお姉さまのように自らの心を開放してあげるのもいいと思いますよ」
いつの間にやら、諭されてしまっている美柑であった。ただ、さほど苛立ったりはせず、むしろ晴れやかであった。
美柑は微笑みながら、モモに告げる。
「うん、分かった。ありがと、モモさん」
「いえいえ、お気になさらず。それでは、私は……」
と、モモはリトの部屋のドアノブに手を伸ばし、触れようとする。
しかし、その手首はすぐにガッチリとつかまれ、寸前で止められた。
「美柑さん?」
「モモさん。早速ですけど、正直に言わせていただきます。リトの部屋に入り込むことをやめてもらえますか」
「それは、美柑さんがしたいことでしょうか?」
モモが困ったといわんばかりの表情で美柑に訊いた。
それに対して、美柑は破顔一笑しながら答える。
「はい。ララさんならともかく、モモさんを通すことはできません。いろんな意味で危険ですから」
その声を聞いて、モモも笑いながら、ドアノブの近くから手を離す。その様子を見て美柑がモモの手首から力を抜き、自由にした。
「仕方ありませんね……。その代わり……」
「何?」
「今夜は美柑さんのところにお世話になるとしましょう」
「へ……?」
訳の分からないモモの発言に戸惑う美柑。そんな美柑をお構いなしに、モモは一人、勝手に話を進めるのであった
「では、行きましょう。美柑さん」
「ちょ、ま、待って!」
「夜中ですからお静かに」
「で、でも。ちょっとぉ」
「別にとって食べたりはしませんから。もし、召し上がるのでしたら、それはそれで歓待いたしますけど」
「な、何の話してるのよ!」
「ご想像に任せます」
モモに押され、ズリズリと美柑は自分の部屋へと押し込まれた。そのまま、ベッドまで連れて行かれ、結局、一緒に寝ることになってしまったのだった。
やっぱり煮ても焼いても食えない人だ、と美柑はしみじみ感じるのであった。
次の日……。
美柑が朝ごはんを作り終えたとき、ちょうどよくリトが二階から降りてきた。
「おはよう、美柑」
「おはよ、リト。食事できてるから、すぐ食べられるよ」
「分かった。顔洗ってきたらすぐ食べる」
「うん」
リトが洗面所で顔を洗っている間、美柑は昨夜のことを考えていた。
食事を作って、普段と変わらず食べてもらう。これはどうだろう。やりたいことかな、と考えると、すぐに答えが返ってくる。
「(料理は好きだし、食べてもらうことも好きだし、それに……)」
どうやら、食事の支度に関しては、自分のやりたいことで間違いなさそうだ、と美柑は判断した。
それはそうと、朝起きたら、モモがいなくなっていた。ひょっとしてリトの部屋に行ったのかと思い、覗いたが違ったようだった。
「(モモさん、結構大きくて、それでいて柔らかくて……)」
ついでに、昨晩ちょっと触らせてもらった。両手にいまだその感触が残っていた。
手をワキワキさせながら、自分の胸を見てみる。
「ハァ……」
努力は続けていこうと思うものの、これに限って言えば、天意と時間に任せるより他はないようだった。
母親のことを考えるに、それほど悪い結果になるとは考えていないのだけれど……。
「美柑」
リトが戻ってきて、美柑に声を掛ける。
「あ、うん。じゃあ食べよっか」
二人は同時に座り、テーブルを挟んで向かい合った。
「ああ。そういえば、今日は二人分なのか」
「ララさんは日直だし、ナナさんとモモさんはまだ起きてないみたい。セリーヌもまだだったから」
「そっか。んじゃ、いただきまーす」
「はい、召し上がれ」
リトが箸を取って食べ始める。それは、普段と変わらない様子だった。
美柑は、リトの食べる姿をじっと見ていた。
「どうした? 食べないのか?」
目線がずっと自分に向けられているのを感じ取ってか、リトは「何だろう」と思い、美柑に尋ねたのだった。
「もちろん食べるよ。ねぇ、リト。今日の出来はどう?」
「おいしい。てか美柑の飯でおいしい以外の感想を持ったことはほとんど無いからなぁ」
「ほとんどってことは、あったんだ?」
「そりゃ、最近だと一度だけ。あとで、作ったお前自身がなぜか『何これ』、と言ったメニューが」
リトが苦笑いしながら答えた。最近ということは、どうやら、あの日のようだと美柑も理解した。
「(今度、ヤミさんを料理にでも誘おうかなぁ……)」
一度、ヤミさんと一緒に料理するのも楽しいかもしれないな、と美柑は考えるのだった。
「それで、今日もおいしいけど。何かあったのか」
リトが話を戻す。話しているが、手を止めることも、口を止めることも無い。
そんなリトの様子を見て、美柑は笑いながら言う。
「なんでもないよ」
「ホントに?」
リトの疑問を打ち消すように、美柑はさらに思い切り笑って言うのであった。
「うん! なんでもね!」
<後書き>
いかがでしたでしょうか。
あんまりとらぶるしてないですね……。申し訳ありません。
リトも最後でしか登場しないし……。
毎週毎週、気軽に読めるちょっとエッチな話を書き続けた原作はすごいとしか言えません。
きっとシチュエーションをどうしようか、どこで絡ませようか、などを綿密に考えて計算式が編み出されているのです。
股間を覗き込む角度×乳首と髪の毛の境界線×お尻を鷲掴みする指の入射角=??
こんな感じでしょうか。
まず、自分の頭にある規制を外さなければなりません。
「規制緩和(ディレギュレーション)」
この能力は担当による原稿チェックにおいて効力を発揮する。
光と線のトリックを用いることで、一見見えないものがよく見ると見えたり、見えていたものが消え、下にある真実が見えたりするのだ!!(ババン)
では、また月曜日?にお会いしましょう。さようなら〜〜
(もちろんSS以外は月曜じゃなくても書きます)
<追記>
一応昔書いた奴も紹介しておきます。よろしければどうぞお読みくださいませ。
『ToLOVEる -とらぶる-』SS「春眠乙女」 - 一歩進んで三歩戻る
初めて書いた美柑ssですね。内容はリトと一緒に寝る。原作でやりましたね。一応原作よりも先に書いたんで許してください。
それに色々違うところもありますし……。
『ToLOVEる -とらぶる-』SS「兄で息子、妹で母親な二人だけの昼下がり」 - 一歩進んで三歩戻る
第二弾美柑ss。内容は夏休み終盤のある日、美柑がリトの耳掃除をします。
ちょっとドキドキなはずなのですが、リトはあまりドキドキしなかったり。てかリトがドキドキしたら性的に過ぎるなと思ったので。
『ToLOVEる -とらぶる-』SS「夏の終わり」 - 一歩進んで三歩戻る
第三弾美柑ss。内容は、リトと美柑とセリーヌがアイスを食べたりする話。
食べあいっことか書いてみたかったんです。
『ToLOVEる -とらぶる-』SS「ある朝の儀式」 - 一歩進んで三歩戻る
第四弾美柑ss。
リトの唇に朝起きると不思議な感触が……。最近寝起きも良いし……。そういや、いつも美柑がカーテン引いているような……。
一体どういうことだろう?というのが内容。
リトの無自覚と美柑の自覚を対比させるみたいな。