『踊る星降るレネシクル』裕時 悠示 (著), たかやKi (イラスト)
1.概要
とにかく粗い。それでいて、今後の広がりが今ひとつ予測しづらい作品。
ただ、この巻に関して言えば、万人に受けやすい話作りをしているので、楽しめる可能性は高い。
とりあえず、長所と短所をザーッと挙げてみることにする。
2.長所
- 単なる筋力、よく見られる能力に留まらず、もっと広く「力」を認めるというアイデア
- すまるが可愛らしく描けていること
- 女王可愛い
- 話作りが王道
3.短所
- ミカホシ市のミカホシ学園で行われる戦いという極めて限定的な舞台設定
- 星降りの設定が浮いてしまっていること
- レネシクルの光の強さが勝敗を分けてしまうにも関わらず、レネシクルの光を強めるには「現在」ではなく「過去」の蓄積を重要視してしまうこと(精神状態によって、光が強められることもあるらしいが、それ相応な環境でないと難しいようである)
- 能力はレネシクルによって起こるものなのか、レネシクル以外の要素で起こるものなのか分かりづらいこと(腐海流は鍛錬で身につくが、もうふや遊園、闇鳴の能力はどうやって生まれたのか)
- 御三家(千陽院・舞波・乾)をすべて出してしまったこと
- 変更した強さの概念を上手く扱えておらず、「力」の勝負に落ち着いてしまったこと
- 昨年度のランキングトップ10を一度に使いすぎていること
- 個々の能力者が繰り出す能力の実体があまり創造的でないこと
- 瑞貴を今一つ魅力的に描けていないこと(登場時間の短さもあるが……)
- 中途半端に現実的
- 展開が強引
- 文章が……。うんまあそんな感じ
4.考察
2と3で長所と短所を挙げた。ここからは考察を書く。
以上から、まず1つの問題点が浮かぶ。それは
「アイデアを設定が縛り付けてしまっている」
という点。
色々な「力」を認めるというアイデアは創造的だった。同じ土俵で戦わせるという考えも良い。
だが、問題はそれらを最初に作った設定が縛り付けてしまっていることだ。
例えば、舞台設定。ミカホシ市、ミカホシ学園で行われる戦い。極めてローカルである。ここまで限定的にする必要があったのかと思う。禁書(注:アニメでしか見たことないです)の学園都市のような設定を狙ったのかもしれないが、上手くはいっていない。
というのも、レネシクルの与奪を決定する機関がミカホシにある五人亞里亞、五人亞里亞に認可された150名のみがランキングバトルに参加出来るという設定があるからだ。狭い、狭すぎる設定である。能力者の戦いならば、もっと開かれていてもよいだろう。(ひょっとしたら、別の信仰があって、それと戦うことが可能なのかもしれない。だが、その場合レネシクルの設定が足を引っ張る)
その点で、禁書は上手い。「レベル」という考え方を取り入れることで、広がりのある設定をもたらしている。しかもレベルが適用されるのは科学側だけで、魔術というもう一つの概念を外に放置しているから、遠慮なく手を広げていくことが可能となっている。
るるルの場合、アイデアは良かったが、設定を狭くしすぎることで、今後に不安を感じさせてしまった。
次の問題は「星降り」である。
レネシクルという設定を用意して、そこに星降りの設定が加わる。レネシクルによって能力者たちが対等な条件で戦うことができる。ここまでは良い。だが、星降りはそのパワーバランスを歪めてしまう。
なぜなら、星降りを行えるのが「御三家の血族」に限られるという設定があるからだ。もちろん、血縁なんてもの余程管理されてなければ、かなりの広がりを持ってしまうものである。しかし、対象を限定するのは間違いがない。現状の理解では、星降りを行える人間が上位ランクに行く。
つまり、どういう事だってばよ……な話になってしまうのだ。レネシクルの資質に星降りが加われば、その時点で相当上に行ける。じゃあミカホシランクって結局やる意味あるのかという問題が生じる。
逆に、星降りによる星霊憑依が全くの能力向上をもたらさないとするならば、それもそれでつまりどういう事だってばよ、な話になる。
どちらにしても、星降りの設定は今ひとつレネシクルやミカホシランクと合わないのである。
ついでに言うと、星降りで憑依できる神は、日本の星神である。日本の星神ってそんなキャラ数多かったっけなぁ……という問題がある。これもまた縛りの一つとなってしまう。
3つめからは細かい点を考えてみる。
まずはレネシクルの謎。大まかに言うと、卵が先か鶏が先かという話。具体的に言うと、能力が先かレネシクルが先か。特定して言うと、もうふや遊園、闇鳴の能力発露が先かレネシクルに基づく能力なのかということになる。
おそらく、能力が先で、あとからレネシクルが授与されたのだろうけれども、どうやって能力が発露したのかさっぱり分からない。特にダイヤモンドヒッキーが分からない。引きこもって能力発露? そして進学。五人亞里亞がレネシクルプレゼントと。あれ?でもバトルに出てきたらヒキコモリじゃないような……。つまりどういう事だってばよ……。
次は、現実性はもう少し減らすべきだったのではと。
単純に言うと、とらぶるとかドラえもんとか出さない方が良い。身近さを高める一方、非現実性、ありえなさを減退させてしまう。
架空にこだわるならもっと架空で突っ走るべきだろう。
文章については、きちんとしたモノを読みたい方にとってはお勧めできない
つまり潔癖な方は読まない方が良いだろう。
まあ、自分もそれ程書ける人間ではないので、これ以上コメントしない。(というチキン)
5.感想
読後感はスッキリとしたものに仕上がっている。
個々の登場人物も、それなりに魅力的な存在が多い。描写不足の登場人物――ってか瑞貴のことだが――もいるけれども、大体は良いと思う。
しかし、粗い。そして第1巻以降の先が読めない。
もっと風呂敷を広げられるアイデアなのに、囲いが作られてしまっている。
ただ、この囲いはあくまでも読んだ自分から考えられる囲いなので、それ程気にする必要もないのかもしれない。例えば、ラブコメならこの囲いの中でも十分繰り広げられるはずだ。
でも、今後格闘モノ、能力バトルモノとして書いていくならば、それは大変だろう。
設定を破壊するような存在が必要となると思う。ミカホシ設定を破壊する登場人物が現れないと世界が広がらないと考えるから。
もう一つ、主人公が鈍感。ほっぺたに感情が出るレベルであの反応とは如何なることぞ。
こちらは早いとこ、好意に気づかせる処置をしないと、面倒な事になるのではと心配。
まとめ、
炎の転校生で聖闘士星矢でジョジョの奇妙な冒険でボーイ・ミーツ・ガールものなそんな感じ〜なそんな感じ〜なわけで。
次巻に続くと思うのであった。
- 作者: 裕時悠示,たかやKi
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2010/04/15
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