小説版『神のみぞ知るセカイ―神と悪魔と天使』 有沢まみず(著)
神知るがノベライズ化されました。って5月20日発売なので相当古い出来事なんですけれども。
今更感想を書いても需要があるのだろうかと考えたりしましたが、まあそれでもいっかと開き直りました。
それでは、感想を書きます。
まず、本自体の紹介から。
原作の設定としては、二次元世界の“落とし神”こと主人公、桂木桂馬がひょんとしたことから悪魔界の落ちこぼれ少女、エルシィに巻き込まれる。
桂馬に課せられた使命は現実の少女から“駆け魂”を引っ張り出すこと。もし拒めば、首が飛ばされることに、という微妙なバトルロワイヤル。
果たして桂馬の運命やいかに。
というのが原作。そして、今回の小説は、
今回の攻略対象は2人。
1人目は天美透。一見すると電波系の女の子で、かわいいが頭がちょっと変。なにやら永遠にプラスのものを探しているということ。しかしその実は……?
2人目は吉野麻美。ごくごく平凡な少女。茶道部に所属しているらしいが、活動実態は不明。学校では目立たない少女が、再び家から出てくると活発な少女と化す。二重性格系キャラ?
彼女らの心の隙間を桂馬は見つけ、エンディングまでのルートを発見することが出来るのか。
といった話です。導入部分の説明は大体これでいいのではと思います。ネタバレは抑えてありますので、初見でも問題ないはず。
それでは、感想に入ります。
一言で纏めると、よく出来ているな〜と思いました。
最初は1人ずつ攻略する話、つまり短いエピソード二本立てだと思っていたのですが、同時攻略を実行するとは思いもよりませんでした。
ただ、このことは目次を見ればすぐ分かるので、ろくに目次も見ていない自分のアホさが確定的に明らかになっただけなのですが。
章立ても、1章で透、2章で麻美の導入をやって。3章で謎解き、4章で解決と起承転結がしっかりしていて分かりやすいのがよかったですね。
話の内容も、エロゲギャルゲちっくなところを確実に押さえてあって、変にひねったりして原作の方向性を外していません。
以上から、内容の面でも構成の面でも良くできたノベライズと言っていいと考えます。
ここからは、更に一歩踏み出して、神知るの問題について考えてみます。
この本を読んで、もう一つ思ったことがありました。
それは、神知るは結局、エロゲギャルゲのADV形式でやるのが一番楽しいのかな、ということです。
サンデーでの連載やコミックスを読んでいて感じることがあります。それは、ページ数が不足しているなあ、です。
週刊漫画というか、漫画雑誌全般に言えることですが、掲載できるページ数が決まっているんですね。週刊だと18か20ページぐらいでしょうか。
ここで、二つの問題が出てきます。
・一つ目は、その形式だと、神知るは全然ページ数が足らない。
・二つ目は、加えて、長期にわたって1人の攻略を行なうほど、余裕もない。
このため、説明不足だなあとか、強引だなあとか、よく感じてしまいます。
どうして情報量が不足するのかと考えました。
すると、この漫画自体が対象キャラクターへと更に一歩踏み込まなければ、最終的な結論に至らないという構造的な問題があるからだ、という考えに至りました。
例えば、探偵ものなら、真実を明らかにするだけよいわけです。真実を示したら、そこで探偵の役割は終わり。犯人をその後どう更生させるか、ということはまた別の話になるわけです。
しかし、神知るは違う。対象に真実をバーンと突きつけるだけでは終わらない。もう一歩踏み込んで心の隙間を埋めなければ、話が終わってくれない。となると、その過程を描かねばならないのですが、困ったことにページ数が足らない。といっても次回に回すほどのものではない。
結局、どちらかを妥協して描かざるを得ない、ということになってしまっています。
ですが、その欠点を小説版では補えています。
例えばページ割ですが、第1章68ページ、第2章30ページ、第3章44ページ、そして第4章100ページです。
導入編と解決編でページ数を大幅に割く。この構成は、週刊漫画では出来ないことです。
今回の話でも、導入と解決にページ数をガッツリと確保することによって、漫画内での話より無理なく収まっています。
ただ、ノベル形式が最高か、という話になるとまた変わってくるわけです。
ここで、漫画、アニメ、ADVの3つについて考えてみます。
漫画版ではノベルにない魅力があります。それは、視覚的に変化を表現することが出来る点です。ただし、先ほど書いたように、ページや回数の制限が大きく表現に悪い影響を及ぼしています。
アニメではどうでしょう。音が付いて、キャラが動いて、初見の分かりやすさで言えば、小説版よりも優れていると思います。ただ、こちらも時間制限があるところが問題です。加えて労力に見合う出来にするのがかなり大変です。
となると、ADVが一番なのかなと感じます。声付き、立ち絵イベント絵あり、ページや時間の制限無し、絵が付いているので文体も簡略化可能。そして、比較的少人数で作成可能です。もともと、ギャルゲやエロゲを起源とした話作りをしているので、この形式がもっとも自由でもっともらしさを表現できる場所ではないでしょうか。
ここまでで、神知るで感じている問題とADV形式で行なうのが一番いいのでは、ということを述べてきました。
もうそろそろ締めに入りたいと思います。
今まで、散々ADVが良いと言ってきました
しかし、個人的にはこのまま漫画版で描いてくれても面白いと考えています。
最近の展開を見ると、方向性を変えてみたり、視点を動かしたりといろいろな試みを通して、何とか無理のない話作りをしようと試行錯誤しているように感じます。
それが、最終的に実になったとき、もう一段階上の面白い漫画になってくれると期待しています。
結論とすれば、漫画版が最終的な表現手法を上手く定められたら、今まで以上に楽しめるはず、ということです。
以上になります。小説版は中々いい出来で面白いです。
好きならば損はしないと思います。
ではまた今度。
神のみぞ知るセカイ―神と悪魔と天使 (ガガガ文庫 あ 4-1)
- 作者: 有沢まみず,若木民喜
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/05/20
- メディア: 文庫
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